スポンサーサイト
-------- -- --:--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
別窓 | スポンサー広告 | ∧top | under∨
船大工過去話2
2010-07-10 Sat 23:38
ホエルオー♀:ツィスカの過去話第1章です。

あの女の心の叫びが放たれてからどれ程の月日が経っただろうか。
どちらにしても、あの日から今まで、この国に存在する掟はずっと続いている。

「お父さん、その道具はなんと言うの?」

子供にしては落ち着いた口調をした女の子がいた。
年齢は7、8と言ったところだろうか。無造作に跳ねた蒼い髪は海を思わせる。
ぱちくりと開かれた大きな目はある一点をずっと見つめている。
目の前に、作業椅子に腰掛けた大男が手にしているそれを見ていた。

「・・・金槌だ・・・。」

大男は男性らしい低い声で、短く答えた。
金槌を振り上げてはおろし、それを繰り返していくと、そこにあった釘は、やがて木材の中へと姿を消していった。

「ふうん。それで、お父さんはお仕事をしているのね。」
「そうだな・・・そういうことになる・・・。」
「ねえ、こっちにある金槌で、私もお父さんみたくやってみてもいい?」

彼女の指差す先には大男が手にしている金槌よりも、一回りほど小さな金槌である。

「・・・好きにすれば良かろう。」

子供が怪我をするのではないかという心配や、
自分と同じことをしようとしている我が子への喜びとはまた違う、無関心に近い心境で大男は答えた。
その言葉を、「許可」と真っ直ぐに受け止めた彼女は、弾かれた様に金槌の元へと飛んでいく。
それを手にした直後、彼女は小さくよろめいた。

「これっ・・・ちょっと重たいかも・・・。」
「最初のうちはそんなものだろうな。」

やはり微笑ましくも心配とも感じられない、無の表情で大男は答えた。
その大男の表情には全く気にすることなく、彼女は次の物を探し始めた。
工房の隅に落ちている錆をまとった釘とボロボロで使い物にならない小さな角材。
それを小さな手で拾い上げ、大男が普段やっている動作を見よう見真似でやってみる。
錆が付いていたり、彼女の手がおぼつかないこともあり、見栄えは良いとは言えないが、やがて釘は角材へと埋まっていく。
それを見て、彼女は満面の笑みになった。

「お父さん!見て見て!」
「ああ、初めてにしては上手いんじゃないか・・・」

僅かに角材に目をやって、すぐに自分が打ち込んでいる仕事へと視線を変える。
第三者からすれば明らかに冷たい父親だと感じるが、彼女は全く平気だった。
それが普通だと思っていたからだ。

「ほんと?!私もさ、大きくなったらお父さんみたいに立派な大工さんになれるかな?!」
「もう少し大きくなればな・・・」
「きめた!私、大きくなったら大工さんになる!」

金槌を握る手に力が入り、彼女は小さいながらも大きな希望を抱えていた。

「そうか・・・」

それを大男は、子供の一時的な感情で口にした出まかせだと心の中で軽くあしらった。







更に月日は流れて、彼女が10ほどの年齢になった頃。
彼女の手には相変わらずあの日から金槌が体の一部のように常に手元にあり、
暇さえあれば錆びた釘や使い物にならない角材で何度も、何度も練習をしている。
あの日と違うのは彼女の大工道具が増えた事、それから釘を打つ技術が向上していることだった。
のこぎりや桐、鉋など、大男が使い物にならなくなったと処分する寸前で譲ってもらった物なので
刃が欠けているなどして危険な代物ではあったが、新しいものを買ってくれとは、彼女には到底言えなかった。
この日も、彼女は角材に釘を打っている。
のこぎりで裁断したり、釘を打ちやすくするように桐で簡単に穴を開ける技術も身につけた。

「お父さん、今日の出来栄えはどう?」

やはり子供の割には落ち着いた口調で、大男に尋ねる。
大男は仕方なしと言ったように角材を手に取り、簡単に眺めた後、彼女に角材を返した。

「まあまあだろうな。」
「3ヶ月前からそればっかり。いつになったら一人前だと認めてもらえるの?」
「お前がもう少し大きくなってからだな。それから技術の方も、ちゃんとした知識を取り入れないとならん。」

彼女は僅かに俯き、少しの間考えるような仕草をしていた。
やがて顔を上げたが、その顔は爽やかな笑みが浮かんでいた。

「そう、ならもっともっと頑張らないといけないね。私、頑張るから。」

その言葉に、大男は殆ど耳を貸していなかった。
耳を貸せば情が生まれる。そういう考えもあったが、すべては掟の為、自分たち男の為だと考えた。

別窓 | SS | ∧top | under∨
| 望遠鏡の向こう側 |
 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。